「『五月病』という言葉を、ご存知ですか?」
そんな質問をしたら、ある年代以上の方は、「今さら何を?」と、逆に驚くかもしれません。
ご存知のように、五月病とは、GW明けに起きる心身の不調を表わす言葉です。以前は、この時期の風物詩であるかのように使われていましたが、最近の若者は、この言葉の存在自体知らないそうです。臨床心理士への大学生の相談も、以前はこの時期がピークだったのですが、近年はそんなこともありません。
もともと「五月病」という言葉は、正式な精神科の病名ではなく、一種の適応障害です。しかし、最近は、五月病といわれる状態の背景に、うつ病や気分障害が隠れているのではないかという視点で考える専門家が増えてきました。今や、五月病は、「一過性で誰にでも起こる心の疲れ」などと簡単に看過することは、できなくなってきています。
それが、若者が五月病という言葉を知らないことにも関連しているのかもしれません。 とはいえ、風薫り、新緑がまぶしい、1年で最も過ごしやすいこの時期に、体調や気分が沈み、苦しいという方の心の中では、どんなことが起こっているのでしょうか。ある方は、「初夏を思わせる、明るくまぶしい太陽の光が出てくる時期になると、暗く重く、まだ冬の気分である自分との差が際立ち、余計に憂鬱になり、外に出るのがとてもしんどい」とおっしゃいました。
冬季うつ病などの気分障害では、季節によって大きく気分や脳の働きが変化します。このため、こうした季節の変わり目が、実は一番つらいのです。
1995年、臨床心理士資格取得。国立病院児童精神科技術研修生を経て、公立教育相談室で小学生から高校生までの児童・生徒を中心に10年以上相談活動を続け、その後、成人の精神衛生に相談活動を移す。家族関係や身体不調の背景にある、生きづらさのメッセージを読み取ろうと研鑽を積み、医療関係者や関連機関とも連携を図って来談者がより生きやすい生活が送れるよう心がけている。